小川聡クリニック

院長の独り言

第13回心房細動発作には気圧変化だけでなく寒暖差も?

第11回「院長の独り言」で「気象病」について触れ、発作性心房細動の発症に気圧の変化が関わっていることを示しました。8~10月の解析では、20名中4~5名で発作が集中するクラスターの多くで気圧の急低下と関連がありました。ただし、中には気圧が下がっていても発作が出ないケースもありますし、気圧が高い時にも発作は見られます。もちろん、気象以外にも諸々の因子が自律神経のバランスを崩して発作につながることも多々あり、気圧だけが原因と断定するのは時期尚早です。

第11回の記事を見て下さった患者様のお一人が、有難いことにご自分の心房細動発作が発生した時刻とその時点の気圧をリアルタイムで表示した図を作成くださいました。そこでは、気圧が急激に低下した時点と一致した発作がありましたが、よく見ると気圧低下が発作に1〜数時間先行していることが判りました。これも発作の予知や予防に重要な手掛かりです。また、これとは別に気圧変化が少ないのに発生している発作もありました。

そこで今回はもう少し気象にこだわり、前回は夏でしたので、冬場(12〜2月)で検討してみました。今回の集計では、1〜2名の入れ替わりはありましたが、前回とほぼ同じ21名の患者様を対象にしていますが、冬場の心房細動発作の頻度が夏場よりも25%多いのが判りました(表1)(183 vs 226回)。1,010hPa以下に気圧が低下した日数は夏場の方が多く、その日に発生した心房細動発作も夏場が多かったのですが(132 vs 103回)、一日平均で見ると冬場の方が多い結果でした(1.91 vs 2.58回)。そこで、冬場には気圧以外に、より発作を起きやすくする要因があるのではないかと、今回は気温に注目してみました。

【表1】 8〜10月 12〜2月
全発作数 183回 226回
<1,010の日数 69日 40日
<1,010の日の発作回数 132回(72.1%) 103回(45.5%)
1日あたりの発作回数 1.91 2.58

図1には、12〜2月の3ヶ月間の最低気圧の変化(赤線)と1日あたりの発作人数を示しました。

【図1】
図1

4〜6人の発作クラスターを示したのは夏季には12日間ありましたが、そのうち8日間で、気圧が1,010hPa以下に低下してました。一方、冬季ではクラスターが18日間ありましたが、気圧が低下していたのは半数の9日だけでした(図1)。12月7日には997hPaへと著明に低下し、下がり始めの前日6日(1,006hPa)には5人で発作が出ています。しかしそれ以外では、気圧が低下してもそれほど発作が増えている様には見えません。一方、気圧が1,010hPa以上の残る9日間では、例えば、2月23日から25日の3日間のように、連日5、4、4人のクラスターを生じていました。特徴的なのは、この1,010hPa以上の9日中8日間では最低気温が5℃以下に低下していたことです。残る1日の12月8日も、6℃と寒い日でした。その日も気圧は1,012hPaと低下は著明ではないにもかかわらず、この冬一番の6名のクラスターを示していました。

図2には、12月だけのデータに最低気温の変化を加えて示しました。気圧が急激に低下したのが5回ありました。1,000hPaを割ったのが3回(12月7日、16日〜17日、31日)、1,005hPa程度が2回(12日、20〜21日)でしたが、これに一致して4人以上のクラスターが出たのは6日と12日だけで、残る3回では1〜3名しか発作が出ていません。逆に、こうした気圧変化と無関係に毎日2〜3人の発作が万遍なく広がっているように見えます。

一方、気温の変化(緑色ライン)を見ると、12月中旬までは比較的暖かい日が続いていました。最低気温が5℃以下だった12月2〜4日と17〜30日は、気圧は下がっていないのに毎日3〜4人で発作が出ています。逆に気温が比較的高い中旬には大きな気圧変動があっても発作が少ない傾向でした。

【図2】
図2

以上をまとめますと、
1)冬場で気温が5℃以下になると、それだけで心房細動発作が増える傾向にありました
2)気圧低下の影響は夏場ほど顕著でありませんが、1,000hPaを切るほどの大きな低下があると影響が見られました

今回も気象予報士資格を持つ脳神経外科医の福永篤志先生(公立福生病院)からコメントをいただきました。
「ヒトの体温に近い時期は気温そのものによるストレスが小さく、体温よりも20℃以上低いと気温によるストレスを受けやすいようです。前回解析時期(8〜10月で平均気温18〜29℃)と比べると、12〜2月は7〜9℃であり、10〜20℃ほどの気温差があることが影響しているかもしれません。すなわち、細動発作には気圧低下と気温低下の2つの因子(他にもあるかもしれませんが)が関与していて、夏場のような暑い時期には気圧低下の影響が大きく、冬場のように寒いと気温低下の影響が大きくなるのかもしれません。冬の暖かい日には気圧が多少下がってもクラスターが起きないのは、冬は気圧低下の影響が小さいままなのかもしれません。」

今後はこうした気象データを参考に、心房細動発症予防対策を立てられる可能性があるかもしれません。乞ご期待。