小川聡クリニック

読んで役立つ院長の医学講座 〜圧倒的な臨床経験と知識に裏打ちされた院長からのメッセージです〜

第7回「徐脈性不整脈とは?〜房室ブロック」

心臓の発電所(洞結節)で発生した電気信号が、送電線(刺激伝導系)を介して心房から心室へ伝えられる過程で異常が起きて、信号の伝わり方が遅れたり、途絶したりするものを「房室ブロック」と呼びます。通常は、心房と心室の中間地点にある「房室結節」が関わっています。房室結節は、いわば送電線の中継所の役割を果たしており、信号の流れを調整しています。

この場所は自律神経の影響を強く受けており、信号を早く流したり(交感神経の働き)、遅らせたり(迷走神経の働き)、心房からの余計な信号を塞き止めたりしています。例えば、心房細動の際には、心房が毎分400以上の信号を発生させていますが、それが全部心室に流れると「心室細動」と同じ状態になって命に関わります。そこで、房室結節がこの信号を間引きして心室の拍動を適切な範囲に調節してくれます。迷走神経の働きが強くなったり、心臓病や加齢で房室結節が障害されると房室ブロックが起きます。房室結節以下の送電線の障害でも同様なことは生じますが、より重症です。その程度によってⅠ度、Ⅱ度、Ⅲ度房室ブロックに分けられます。

Ⅰ度房室ブロック:電気信号の伝わり方が少し遅れるもので、症状も出ず心配ありません。通常は心房から心室まで信号が伝わる時間は0.20秒以内とされており、それを超えると「I度房室ブロック」と診断されます。迷走神経の働きが強い10−20歳代でよく見られます。高齢者や心臓病のある人では、より高度の房室ブロックに進行することもあるので、経過観察が必要です。

Ⅱ度房室ブロック:時々(数拍に1回とか)心室への信号の流れが途絶するものです。周期的に繰り返すこともありますが、途絶した時には心臓の拍動が起きないので、脈が跳んだ感じになります。

途絶する様式によって、①ウェンケバッハ型Ⅱ度房室ブロックと②モービッツ型Ⅱ度房室 ブロックに分けられます。前者は、途絶する場所が房室結節内が多く、迷走神経緊張に関係し、若い人にも多く、夜間には健康な人でもよく見られます。症状もなく心配ない場合が大部分です。後者は、房室結節よりも下の、心室寄りの送電線の障害によるものが多く、信号の途絶が連続して長い心停止を伴い、失神を生ずる場合もあり、ペースメーカー治療が必要となる可能性が大です。

Ⅲ度房室ブロック(完全房室ブロック):発電所(洞結節)から心房まで広がった信号が、心室へ伝わる前のどこか(房室結節のことも、それ以下の送電線のこともあります)で完全に途絶える状態です。通常は信号が途絶えた場所の下から、新たな電気信号(補充収縮)が発生して最低限の心室の拍動は維持されます。その補充収縮の拍動数が少ないほど、めまい、失神、全身倦怠感、労作時呼吸困難などの徐脈による症状が出てきて、人工ペースメーカー植え込みが必要になります。